
2003.05.14
今日は、大腸の腹腔鏡下手術について教えてください。
まず、腹腔鏡下手術とはどのようなものですか?
従来の開腹手術は、腹壁を大きく切開し腹腔内 (腹部の胃や腸などが入っているスペース) を直接見ながら手術を行うものでした。
これに対し腹腔鏡下手術とは、腹部に何ヶ所か小さな穴 (5〜10mm) をあけ、そこから内視鏡や鉗子を入れて、腹腔内の臓器に対して手術を行う方法です。 まず気腹といって、臍の小孔から炭酸ガス (CO2) を腹腔内に送ります。 約2〜3Lのガスによって腹腔が膨れます。 これにより腹腔内に十分なスペースができて、術者の視野と作業空間が確保されます。 術者の眼の代わりに腹腔鏡と呼ばれるカメラを臍の小孔から挿入し、手の代わりに鉗子という柄の長い手術器具を腹部の他の小孔から挿入し、ビデオモニターに映る腹腔内の様子を見ながら手術を行います。
腹腔鏡下手術は1980年代後半に欧米で腹腔鏡下胆嚢摘出術が開発され、日本でも1990年頃より導入され急速に拡まりました。
現在では消化器外科を始めとして婦人科、泌尿器科など腹部臓器を扱う領域においても発達してきています。
大腸の腹腔鏡下手術とはどのようなものですか?
上述のようにビデオモニターを見ながら腸管の剥離 ・ 授動、血管の処理を行い,一ヶ所の小孔を4〜5cm延長して小開腹し、体外へ腸管を出して直視下に切除 ・ 吻合を行い、また体内に戻す方法をとっています。 全ての手術操作を鏡視下で行うわけではないので厳密には腹腔鏡補助下手術といいます。
どこの病院でもできるのですか? また健康保険は使えるのですか?
腹腔鏡下胆嚢摘出術はほとんど全国の外科で施行されているほど普及しています。 これに対し大腸の腹腔鏡下手術は未だ発展途上の分野であり、各施設間での格差が大きく (全く行われていない病院もあります)、その適応も統一されていません。 健康保険については、現在は早期大腸癌と良性腸疾患に適応があります。
すべての大腸癌に対して腹腔鏡下手術が施行可能なのですか?
技術的にいえば他臓器に直接浸潤しているものを除くほとんどすべての大腸癌に対して腹腔鏡下手術が施行可能であると思われます。 しかし前述の保険適応の問題もあり、当院では進行大腸癌は基本的には腹腔鏡下手術の適応とはしていません。
早期大腸癌の中で粘膜 (m) 癌 (または上皮内癌)、もしくは軽度に粘膜下層 (sm) に浸潤している癌は大腸内視鏡的粘膜切除術 (EMR) による治療が可能です。 また高度に粘膜下層 (sm) に浸潤している癌は、リンパ節転移を約10%程度認めておりリンパ節郭清を伴う腸管切除術が必要とされています。 当院では腹腔鏡下手術を、内視鏡的切除と開腹手術の中間に位置するものと考え、粘膜癌であっても内視鏡的切除が不可能な大きな病変のものや、粘膜下層浸潤癌などの早期大腸癌を腹腔鏡下手術の適応としています。
開腹手術と比べて腹腔鏡下手術の長所 ・ 短所を教えて下さい。
長所
1. 手術による傷あとが小さく患者さんの術後の痛みが非常に少ないことが最大の長所です。 痛みが少ないことから、手術後早くから歩行が可能です。
2. 術後の回復が非常に早いことも大きな特徴です。 腸蠕動の再開が早く経口摂取が早期に再開できます。 術後1〜2日で飲水が可能となり、3〜4日で食事開始、7〜10日程度で退院できます。 一般的な仕事などの社会復帰も早期に可能となります。
3. 手術による傷あとが小さいことで創部への小腸などの癒着が軽度であり、腸閉塞などの合併症の危険性は少なくなります。
短所
1. 今までの開腹手術とは異なって二次元のモニター画面を見て行う手術ですから、外科医には高度な技術が要求されます。 非常に細かい手術操作のために手術時間は開腹手術より長くなります。
しかし腹腔鏡外科医の技術的な進歩 ・ 努力、またビデオモニター、カメラ、鉗子など様々な器械の開発 ・ 発達により手術時間はより短く、より安全に行われるようになってきています。 われわれ外科医にとっては技術的にも精神的にもつらい手術でありますが、患者さんにとっては恩恵の大きい手術であると信じて施行しています。
他院で、早期大腸癌であるが開腹手術を勧められた方は、ぜひ当科外来にセカンドオピニオンを聞きにいらしてください。