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乳腺外科(ブレストセンター)


ページ内目次


乳がん治療の流れ

Ⅰ:検査・診断

1. マンモグラフィ
 マンモグラフィとは乳房専用のレントゲン検査です。触診で見つけることのできないような早期の乳がんを発見するのに非常に有効です。乳房は柔らかい組織でできているため専用の装置を使用します。圧迫板で上下方向・左右方向から乳房をはさみ薄く伸ばすことで、がんと正常組織の区別をつきやすくして撮影しています。
 当院はNPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構によって定められた検診精度管理の線量・画像基準を満たすマンモグラフィ検診施設として認定されており、撮影は女性技師のみで行っています。

2. 乳腺超音波
 超音波は人間に聞こえないほどの高い周波数の音です。魚群探知機と同じ原理で身体の外から超音波を発信し、はね返ってきた反射板を受診し、画像化して体内の様子を調べる検査です。人体に無害で痛みも少ない安心な検査です。
 乳がんは日本人女性が最も多く罹患するがんです。他部位のがんと異なり若い世代の罹患が多く、早期発見、早期治療が社会的にも重要です。
 乳がん検診の基本であるマンモグラフィは濃度の高い乳房では感度がおちることが知られています。超音波検査は高濃度乳房が多い日本人女性に向いている検査と言えます。また、マンモグラフィ不適とされた乳房、胸郭に異常のある方、ペースメーカー、除細動器挿入後の方にも適した検査です。

3. 乳腺MRI
 乳腺MRI検査は強い磁力を発生するMRI装置を用いて、乳がんの発見や大きさ、ひろがりを正確に把握することができる検査です。乳腺エコーやマンモグラフィより感度が良く、画像処理を施すことで三次元的な情報を得ることができます。
 検査台にうつ伏せになり、専用装置に乳房を入れていただいた状態で検査を行います。撮影条件を変えた数種類の撮像や、造影剤を使用するため検査時間は20~30分程度かかりますが、マンモグラフィのような痛みや被ばくを伴いません。造影剤は静脈注射により投与しています。見つかりにくいがんを発見でき、また、がんと思われる腫瘤をより詳しく検査するのに非常に重要な薬剤です。
 当院では、乳房を専用装置に入れる際の補助を女性技師が行っています。検査着を羽織った状態での検査となります。

4. マンモトーム生検
良悪性の鑑別には針生検、マンモトーム生検(*1)などでがん組織の有無を調べて確定します。組織学的に乳がんと診断されれば術式(切除範囲やリンパ節郭清の有無)を決定するためにMRI検査が有用です。

*1 マンモトーム生検とは
悪性の可能性がある病変を超音波検査で部位を同定し、局所麻酔後に体表から約3-4mm程の針を刺し、画像を見ながら組織を吸引・採取する生検器機です。一度の穿刺で何度も採取でき、穿刺部位の縫合も不要です。従来の針生検と比べて組織の採取量が多く、サブタイプ分類(後述)に有効です。

Ⅱ:治療

1. 手術
しこりを含む乳腺の一部を部分的に切除する乳房温存手術と、しこりを含めて乳房全体を切除する乳房切除術に大別されます。乳房切除術の症例に対し、ティッシュエキスパンダー挿入による一次乳房再建手術(後述)も積極的に行っています。以前は、わきの下(腋窩)のリンパ節を手術で取り除く腋窩リンパ節郭清を行うことが標準とされていました。しかし、腋窩リンパ節郭清を行うと患側の腕の「むくみ」や「運動神経障害(手が上げにくい、しびれ)」などの後遺症で悩むことがあります。当院では2000年より、術前検査で明らかな腋窩リンパ節の腫大を認めない場合は手術中にセンチネルリンパ節生検(*2)を行い、不要な腋窩リンパ節郭清を回避しています。

青染したセンチネルリンパ節

*2 センチネルリンパ節生検とは
がんから最初に転移する可能性のあるリンパ節のことです。リンパ節転移を見張っているという意味で「見張りリンパ節」とも呼ばれています。センチネルリンパ節にがんの転移がなければ、それ以外のリンパ節にも転移がないと考えられ、不要な腋窩リンパ節郭清を行いません。当院では色素法を用いていて、乳がん手術中にセンチネルリンパ節転移の有無を判定します。
2. 乳房再建
乳房再建は、再建する時期や方法に応じて、様々な組み合わせがあります。切除手術と同時に行われる一次乳房再建を希望される場合は、乳腺外科医師と形成外科医師の双方から手術の説明をいたします。当院は日本乳房オンコプラスティックサジャリー学会の一次再建の「乳房再建用エキスパンダー/インプラント実施認定施設」でしたが、ガイドライン改定により2018年7月より特別認定施設として「二次再建のエキスパンダーおよび一次二期再建のインプラント使用」が追加で認められました。2019年よりティッシュエキスパンダーを抜去した後、インプラント入れ替え手術を行っています。
2019年7月、ブレストインプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)(*3)の日本人初めての発生例が報告され、テクスチャードタイプのエキスパンダーおよびインプラントの自主回収・販売停止となりました。その結果、一時期日本中で保険による乳房再建手術が施行できなくなりましたが、2019年末よりBIA-ALCL発生頻度が極めて低いエキスパンダーとインプラントに変更となり、乳房再建手術を再開することができました。
*3 BIA-ALCLとは
乳房再建術または乳房増大(豊胸)術でブレスト・インプラントを挿入された方に生じる、T細胞性非ホジキンリンパ腫の一つです。乳癌とは異なり、インプラント周囲に形成される被膜組織から発生する悪性組織です。インプラントが挿入されている方のうち、約3,800-30,000人に一人発生するまれな疾患です。最後のインプラント挿入から診断までは平均9年(0.08-27年)で、主にテクスチャードタイプ(表面がザラザラ)のインプラント使用例で報告されています。
BIA-ALCLを疑う臨床症状は多い順に、遅発性漿液種(約80%)、腫瘤(約40%)の他、疼痛、腫脹、非対称性、被膜拘縮、潰瘍などがあります。
病変が被膜に限局する場合(Stage I)は、被膜の完全切除およびインプラントの抜去のみで、経過観察を行います。被膜や腫瘤が完全に切除できない場合、あるいはリンパ節などへの転移を伴う場合(Stage II-IV)は、化学療法や放射線療法を行います。
BIA-ALCLの5年生存率は91%です。Stage Iで腫瘍・被膜が完全切除された場合は治癒が期待できます。そのため、早期発見が重要となります。
3. 薬物療法
腫瘍径が大きく乳房温存手術が困難な浸潤性乳がんで乳房温存手術を希望される場合、腫瘍縮小を目的に術前化学療法を行います。また、患者さんごとのサブタイプ分類(*4)に応じて、再発を予防する目的でホルモン(内分泌)療法・化学療法・分子標的薬(*5)を単独、または組み合わせて実施します。
*4 サブタイプ分類とは
乳がんの性質は女性ホルモンの影響によって増殖するホルモン受容体(エストロゲン受容体ER、プロゲステロン受容体PgR)とがん増殖因子受容体であるHER2、増殖能の指標であるKi67を免疫染色して5つのタイプに分類され、適切な治療薬が選択されます。ホルモン受容体陽性ならば内分泌療法、HER2陽性ならばトラスツズマブなどの分子標的薬と化学療法を組み合わせて使います。

*5 分子標的薬とは
分子標的薬はがん細胞にある特徴的な物質のみをターゲットするように開発された薬です。乳がんの治療に最初に用いられたのはHER2蛋白を標的にしたトラスツズマブです。抗HER2療法としてはラパチニブ、ペルツズマブ、トラスツズマブ・エムタンシンなどがあり、血管内皮細胞増殖因子VEGFを阻害するベバシズマブ、mTOR蛋白を阻害するエベロリムス、CDK4/6を阻害するパルボシクリブ、アベマシクリブがあります。また、Triple negative再発例には抗PD-L1抗体のアテゾリズマブ、BRCA1/2の遺伝子異常にはPARP阻害剤のオラパリブがあります。

HER2陽性乳癌(免疫染色):大多数の腫瘍細胞の表面にHER2蛋白が存在している


ER陽性乳癌(免疫染色):大多数の腫瘍細胞の核にERが存在している

化学療法は原則、化学療法室で行います。化学療法室には治療専用のリクライニングシートが8台、ベッドが2台あり、がん薬物療法の研鑽を積んだ専従の医師、看護師、薬剤師、が常在しています。

 2019年度の乳がん周術期化学療法において、切除範囲を小さくすることを目的とした術前化学療法施行患者さんは15人。外科手術によりがんが取り除かれた後に、再発のリスクを減少する目的の術後補助化学療法施行患者さんは33人でした。また、ホルモン(内分泌)療法においても、治療開始時に薬剤師より治療の意義を含めた治療完遂を目指す服薬指導を実施しています。2019年度のホルモン(内分泌)療法指導件数は141件でした。
患者さんが安全に的確な薬物治療を受けることができるよう、適切な治療薬の提供、治療薬に関する指導、生活上の注意等の情報提供はもちろんのこと、点滴抗がん剤の全投与毎に面談を行い、副作用のモニタリングを通じてケアが必要な際は主治医へ対症療法の提案をして、患者さんの生活を維持した治療完遂の支援を行っています。

4. 放射線療法
乳房温存手術後の乳房内再発予防を目的として、退院後外来で手術した乳房に原則50Gy(25回)の放射線照射を行います。部分切除した組織の切除断端の状況に応じて10Gy(5回)の追加照射を加える場合があります。また、症例に応じて1回照射量を増やして、照射回数を減らすこともあります。

Ⅲ.乳がんケア

1. リハビリテーション
乳がん手術は、傷の痛みや治療とともに生じる皮膚の硬さやツッパリ感によって、腕が挙がりづらくなるため、術後早期(入院中)より理学療法士または作業療法士によるリハビリテーション指導を開始します。早期にリハビリテーションを実施することで、術後の後遺症を可能な限り予防し、日常生活や復職時の注意点を確認しながら早期社会復帰を目指します。具体的な指導内容は、主体的にセルフケアに取り組めるよう指導を行うとともに、退院後のサポートも実施しています。手術症例のおおよそ9割以上の患者さんに術後のリハビリテーションを実施しています。

2. リンパ浮腫ケア
 リンパ浮腫とは、手術でリンパ節を取り除くことでリンパの流れが滞るために生じる浮腫をいいます。リンパ節郭清を受けた全ての患者さんに発症するわけではありませんが、発症すると完治は難しいとされています。また浮腫が重症化すると日常生活に支障をきたし、感染を繰り返すという特徴があります。したがって日常生活の中で予防して行くことが大切です。当院ではリンパ節郭清を受けた患者さんに対し入院中からリンパ浮腫ケアを実施しています。退院後は乳腺外科外来と連携した定期的なフォローアップによりセルフケア指導と早期発見に努めています。
 
【指導内容】
(1)日常生活指導
(2)圧迫療法
(3)リンパドレナージ(セルフケア)

【現状】
 6年間で179名の患者さんに入院中からの指導を行いました。そのうち治療を必要とするリンパ浮腫発生者は14名/発生率7.8%です。全国平均が約20~30%といわれる中で、当院は非常に低い数値で推移しています。また、14名のほとんどの方は軽減・維持されています。その理由は早期に治療が開始されたことに他なりません。乳がん治療とリンパ浮腫ケアの連携は当院の強みです。

【患者さんからの声】
 「半年毎に診てもらえるので安心です。」
 「忘れそうなタイミングでここに来るのでいつも気持ちを改められます。」
 「体重を気にするようになりました。」
 「やることをやっていれば大丈夫ということが分かってきました。」
 「むくみましたが、早く手当ができたので良かったです。」
                    ・・・などのお声をいただいています。

3. 乳がん患者さんへの支援
乳がんの罹患年齢のピークは、社会的役割を多く持つ40歳代です。治療の選択肢に幅があり外来通院が主となっていることや、治療に伴い外見に変化を来たすこと、10年間のフォローを有するという特徴も乳がんにはあります。そのため、乳がん患者さんには、治療と生活の両立が求められています。
当院では、がん診断告知時にがん関連の専門・認定看護師の同席・面談を行い、病気や治療についての理解を促し、納得のできる治療選択を支援しています。また、病気や治療に伴う症状・副作用について、患者さんの日常生活に即した対処方法を一緒に考え、安全で安心した治療継続に向けた支援も行っています。
 ブレストチームでは「乳がん手術後の下着」について冊子を作成しました。治療の経過に合わせた下着やパッド選びの参考にしてください。治療と仕事の両立や外見の変化に対する相談、その他様々な質問や心配事にお答えする窓口として「がん相談支援センター」があります。医療用ウィッグ・手術後の下着やパッド・爪ケア等の用品を体験できますのでご活用ください。

PDFファイルをご覧になるためには、AdobeReader® が必要です。パソコンにインストールされていない方は右のアイコンをクリックしてダウンロードしてください。

Ⅳ.治療成績

1. 乳がん手術件数
2019年1月から12月までに原発乳がん158件、悪性疾患・再発乳がんその他31件、良性疾患34件の計223件の手術を行いました。

2. 乳がん患者さんの年齢分布
2019年に乳がん手術を施行した患者さんは31歳から94歳まで広く分布し、平均年齢は59.2歳と他施設に比べ高齢者が多い傾向があります。手術患者さん158件中、80歳以上の方が23件(14.6%)と多数認めました。ちなみに2015年、2016年、2017年、2018年の平均年齢はそれぞれ60.3歳、58.5歳、58.5歳、60.3歳でした。

3. 乳がん発見の契機
2019年に手術を施行した乳がん患者さんの乳がん発見契機は、「しこり自覚」が一番多く77件(49%)、乳房腫瘤の自覚はなく検診を受け要精査となり発見される「検診」が54件(34%)、内科や整形外科などで撮影したCT検査等で乳房腫瘤を発見される「偶然検査」が13件(8%)。以前から経過観察していた乳房腫瘤から発見される「経過観察」が14件(9%)です。

4. 乳がん手術患者さんのステージ分類
2019年の乳がん手術のステージ分類は、ステージ 0 21件(13%)、I 61件(39%)、ⅡA 35件(22%)、ⅡB 15件(9%)、ⅢA 12例(8%)、ⅢB 9件(6%)、ⅢC 3件(2%)、Ⅳ 2件(1%)でした。予後良好と考えられるⅡA以下の症例は例年に比べ117件(74%)とやや少ないのですが、昨年後半に進行度の高いご高齢者の手術が多かった影響と考えられます。

5. 術前化学療法
腫瘍径が大きく乳房温存手術が困難な浸潤性乳がんの患者さんで、乳房温存手術を希望する場合、温存率向上を目的に術前化学療法を行っています。特にHER2陽性乳がんでは術前化学療法による腫瘍の縮小効果が期待できます。2019年は158件の手術患者さんのうち20件(12.7%)が術前化学療法後に手術を行いました。

6. 乳がん手術術式
2019年は158件中90件(57%)に乳房温存手術を施行し、乳房切除術は59件(37%)でした。進行度の高い患者さんが多かったためか、乳房温存率が例年と比べ低い結果となりました。また、一時、保険で施行できる乳房再建手術のエキスパンダーが供給されなかったため、乳がん手術と同時に行われる一次乳房再建手術は9件(6%)でした。センチネルリンパ節生検は135件に行われ、24件(15%)が陽性で、腋窩リンパ節郭清は35件(22%)に施行されました。なお、インプラント入れ替え手術が8件行われました。

Ⅴ.乳腺外科外来担当医表

月・火・金の午後は紹介初診患者さんのみの完全予約制ですが、紹介状がなくても月・火・水・金の午前11時半までに初診受付をすれば、当日に乳腺専門医
(嶋田/坂田)が診察いたします。なお、月曜午後の乳腺外来は女性乳腺専門医(関朋子医師)が慶應義塾大学病院より派遣され、外来診療を行っています。
午前 嶋田昌彦 坂田道生 嶋田昌彦 坂田道生
(予約再診のみ)
坂田道生
午後
(完全予約制)
関 朋子 坂田道生 嶋田昌彦
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